進路指導部主任 西村準吉
オープンキャンパス
9月19日(日)。秋田駅から車で30分ほどのひっそりとした場所にある公立大学、国際教養大学のオープンキャンパスが小雨の降る中開催された。秋田県がミネソタ州立大学秋田校の跡地を買い取って、海外の大学の教授や東京外国語大学学長などを歴任した中嶋嶺雄学長を招聘し、「これまでの日本には存在しないグローバル・スタンダードの大学を創り、世界に挑戦するという決意」(学長メッセージより)で、数年にわたる協議を重ねた末2004年に開学した。独創的な理念と斬新なカリキュラムが評判となり、近年では全国で最も注目を集める大学の一つにまでなった。
国際基督教大学(ICU)、立命館アジア太平洋大学(APU)、早稲田大学国際教養学部と並んで、国際教育の担い手として圧倒的な存在感を示している国際教養大学(AIU)とはいったいどんな大学なのか。佼成学園進路指導部webのキャンパスレポートの記念すべき第1回として、その魅力の一端に迫ってみたい。当日は、かねてからAIUに高い関心を寄せている高3の生徒1名と高2の生徒1名が東京から参加した。また、私の中学・高校の同級でもある倉科一希准教授にご案内をしていただいた。
国際教養大学の魅力
国際教養大学の魅力を挙げればきりはないが、
「新入生は一年間の寮生活」
「卒業までに一年間の海外留学を義務化」
「全ての授業が英語で行われる」
「24時間開館の図書館」
という点についてここでは触れておきたい。
AIUのオープンキャンパスでは学生がピンク色のTシャツを着てスタッフとして案内をしてくれる。もちろん日本人だけでなく様々な国の学生たちだ。「国際教養大学を全国に広め隊」という有志の一団が、学生生活について懇切丁寧にレクチャーしている。その語り口は愛校心に溢れ、非常に熱がこもっている。留学体験コーナーにも多くの留学帰りの学生がその魅力について存分に語ってくれる。そう、AIUでは学生そのものが最大の広告塔なのだ。自分の体験してきたことを語るのだから、これ以上に説得力があるものはない。参加した生徒も興味深そうに様々な質問を投げかけていた。
授業は全て英語
英語で行われる模擬授業にも参加した。「日本では90%以上の大学が日本人が日本語で日本人に教えているという形態だが、グローバル社会ではそれは限界にきている」(学長メッセージ)というように、AIUでは教授たちも全ての会議を英語で行っているほどの徹底ぶりである。今回の模擬授業では、20~30名ほどの教室はどの講座も満員で意欲あふれる高校生が英語での授業に聞き入っていた。それだけではなく、一見したところ普通の女の子に見える高校生が自ら挙手して流暢な英語で受け答えをする姿には、未来の大学像が予感された。本校から参加した二人も懸命に授業についていっていたようだ。
見たことのないような図書館
圧巻だったのは図書館である。写真でも分かるように、秋田杉という温かみのある素材を活かして、扇形にゆったりと広がる図書館は日本のどの大学の図書館にも似ていない。開学6年ということもあって蔵書はまだまだ増えると言うことだが、諸外国の文献がこれほど見事に開架されている様子に、本校の生徒も思わず息をのんでいた。中嶋学長によれば、図書館を24時間開館にすることは絶対に譲れない一線だったという。「コンビニだって24時間営業なのに、なんで図書館が24時間開館できないんだ」という一言が印象的だった。防犯上の理由などからなかなか認可が下りなかったが、粘り強く交渉した末に認めてもらい、実際に問題は起こっていないらしい。
高い就職率の秘密
就職率は開学以来100%。今年度もすでに94%だというAIUの驚異的な数字には舌を巻くばかりだが、就職課に立ち寄る機会があったのでそこで就職の実態について疑問をぶつけてみた。
「これだけ不況が続く中、秋田という東京から離れた場所で就活に不利はないんですか?」
「いいえ、本学では多くの企業が大学まで足を運んでセミナーを開催しています。だから、そうした不利はないですよ」
なるほど真の教育を追求していれば人材は確実に育ち、自ずと評価が高まるということのようだ。
午後には倉科准教授の取り計らいで中嶋学長にお会いすることができた。実を言うと中嶋学長は、私と倉科准教授の高校の大先輩にあたる方なのである。そうした縁もあって、お話をうかがうことができたのだが、そのときに印象的なことをおっしゃっていた。
「本学は幸いこんなご時世でも企業からの評価が高く、就職率100%を続けているけれど、就職のために本学を選ぶとしたらそれは本末転倒だ。就職はあくまで結果としてついてくることであって、本学の理念に共感して入学してくれなければ。最近では入学者の水準も上がってきたようで嬉しい面もあるけれど、そうした受験勉強の秀才が増えてしまうのはあまりよくない。もっと荒削りでも意欲のある学生にどんどん挑戦してもらいたい」
学長メッセージ
学長メッセージでは、「知の鎖国」を打破するということを力説されていたように、知の世界のグローバルスタンダードに参入するには小手先の技術や浅薄な海外への憧憬では通用しないようだ。そういえば倉科准教授もこんなことをおっしゃっていた。
「本学では、英語だけができる学生は最初のうちは確かにリードしているけれど、英語は入学してからでも勉強できるので、2年、3年と経過していくうちに英語だけができる学生は置いていかれ、もっと幅広く学ぶ姿勢がある学生が頭角を現すのです」
参加生徒の様子
本校から参加した生徒は、私が事務職員と話しているといつの間にかAIUの留学生と仲良くなっていたり、留学体験コーナーに自ら足を運んでいた。どうやら大いに刺激を受けたようだ。進路指導部主任という役職上、様々な大学を回ることが多いけれども、国際教養大学ほど刺激に満ちた大学はなかなか見つからない。確かに場所の問題や、「国際教育」という単科という点で、誰もが目指す大学ではないだろう。しかし、確実にそこ目指す「誰か」は存在しており、それは年々増えていくことだろう。日本の大学観を見直すときが来ているようだ。授業の枕となる雑談でこの視察について話したところ、予想以上に生徒が関心を示していたのも印象的である。
最後になるが、中嶋学長を始め、倉科准教授や国際教養大学のスタッフの皆さんに感謝したい。(了)
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