三月中旬の札幌はまだ春にはほど遠く、時折雪が舞うような寒さでした。
今回のキャンパスレポートは2009年度の卒業生、黒沼君が学ぶ北海道大学です。黒沼君は佼成学園在学中には生徒会長も務めるかたわら、文化祭では見事なピアノ演奏を披露するなどマルチな才能を発揮した俊英ですが、訪問したその日は奇しくも黒沼君が生徒会長のバトンを渡した元生徒会長が東京大学に合格したという一報を受けたばかりの日でした。
北海道大学は日本で五番目に設立された帝国大学を前身とする総合大学で、学部の構成も以下の通り、実にバラエティに富んでいます。
【文学部・法学部・経済学部・医学部・歯学部・工学部・獣医学部・水産学部・理学部・薬学部・農学部・教育学部】
黒沼君が所属するのは水産学部という北大ならではの学部で、キャンパスは一年の前期までが札幌、その後函館に移ることになります。もともとはペンギンの研究に興味を抱いて北大で学ぶことを志したのですが、現在では食品関係の研究に関心を持つようになり、人気の資源機能化学科を選択したそうです。この春から三年生になる黒沼君は現在函館在住にもかかわらず、大学に入学してから始めたアメリカンフットボール部の活動を続けている関係で、週末は札幌に来ているのです。そのため、今回の訪問ではじっくりと札幌キャンパスを案内してもらうことができました。
黒沼君の話によれば北海道大学は実に学びの環境の整った大学で、居心地がいいそうです。学生は道内がやや多いようですが、伝統的な寮もあることから地方色も豊かで様々な出会いに恵まれるといいます。黒沼君は料理の腕前も達者なので寮には入らず一人暮らしを満喫しているそうですが、学校の勉強と体育会アメフトの活動で多忙な毎日を送っているようです。
キャンパスはまだ雪が降り積もった状態で、通常の授業が行われている時とはだいぶ異なりますが、ところどころ耳慣れない言葉が入ってきます。キャンパス内の広いスペースを指して、
「今は雪が積もってますけど、ここでジンパをやるんですよ」
「ジンパ?」
「あ、ジンギスカンパーティーのことです。新歓の時期になるとこのあたりではみんなジンパやってます」
このあたりも東京都は違ってなかなか味わい深いものがあります。「この池の周りでデートしたカップルは別れるらしいです」などという、ちょっとしたローカル都市伝説も教えてくれました。地方の大学生活は生活そのものがキャンパスの中にあるものと改めて実感しました。
そして有名なポプラ並木は大学キャンパス内とは思えないほど雄壮な自然そのもので、雪を戴いた見事な光景には思わず息を呑みました。並木道の先には広大な農場が広がっており、一つの大学の敷地とは思えないほどです。訪問当日は昼過ぎまで後期試験が行われていた日だけあって記念撮影をしている高校生の姿も見受けられ、全国区の大学の魅力を実感しました。
黒沼君に三年生になってからの展望を尋ねたところ、大学院進学や留学を視野に入れつつ、就職についても考えていきたいということでした。函館キャンパスの水産学部から、札幌キャンパスの農学部の大学院に進学するケースもしばしばあるらしく、勉強についても充分怠りなく進めているそうです。
北海道大学は入試形態も「総合入試」という枠を拡大しており、大学入学後に自分の専門分野を決定していく、いわゆる東大のような「進振り」を進めています。漠然とした憧れをもって北海道の地に学びの可能性を求めてみれば、自分でも思いもしなかったような素晴らしい展開が待ち受けているかもしれません。どこまでも奥深い北海道大学の魅力の一端を語ってくれた黒沼君は、こんなことを言っていました。
「北大は自分がやれることが広がる本当に良い大学ですから佼成学園の後輩たちにも是非勧めて下さい!」
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近年グローバル化の流れは大学にも押し寄せ、多くの大学が「国際系」学部を作ったり、英語のみで行う授業を必修にしたりと、90年代初頭に起こった「国際関係学部ブーム」とは違った形で、もっと本格的な形でグローバルスタンダードを目指す大学の改組が行われている。そして数ある「国際系大学」「国際系学部」の中でひときわ異彩を放つ大学、「立命館アジア太平洋大学」が大分に出来たのは、今から10年ほど前のことだった。
世界中の人のために作った大学
数ある「国際系」大学との違いを尋ねると、「他の大学は日本人が日本人のために作った大学ですが、本学は世界中の人のために作った大学です」と答えてくれたのは、立命館アジア太平洋大学(通称APU)のアドミッションズオフィスの伊藤さんだった。現在、注目を集めている異色の大学APUとはどんな大学なのだろうか。進路指導部のキャンパスレポートの一環として遠く大分まで訪れ、その実態を探りに行った。
今回の視察の目的はもう一つ。今春の卒業生226名のうち、なんと4名がこの大学に進学したのである。東京の私立高校の学生が大分にある大学、しかも学生の半数が留学生というあまりにも個性的な大学に通うことになったのも何かの縁かもしれない。今春の卒業生たちの学年主任でもあった関根と在校生たちとの再会という、ちょっとしたイベントをレポートしてみたい。
APUの場所
大分空港から車で30分ほどかかる高台に別府湾が一望できるところにキャンパスは位置していた。2000年開校ということで校舎はまだ新しく、瀟洒な煉瓦造りの外壁と緑がほどよく調和した空間には時折、強いけれども心地の良い風が吹き抜けていた。自然に囲まれたキャンパスの周囲には何もなく大学そのものが一つの「世界」といった風情だ。学生たちはキャンパスから遙かに見下ろせる別府の街を「下界」と呼んでいたが、まさしくそのくらい「世間」とは隔絶した場所にあった。
APハウス
APUの学生の中にはAPハウスと呼ばれる学生寮に入る学生も少なくない。原則として1年次だけということだが、シェアルームは必ず「国内生」と「国際生」(留学生)がペアになり、最も生きた形での異文化コミュニケーションの場となるようだ。本校の卒業生のうち、2名がAPハウスに入寮(倍率は3倍程度で、学力試験などによって優先順位が決まる)している。80カ国以上の学生が暮らす寮だけあって、食事時には様々な国のスパイシーな香りが建物いっぱいに広がるらしい。残念ながら食事時に訪れたわけではないのでその香りを体験することはできなかった。
授業
授業はかなりユニークだ。国際生にとっては何を学ぶにしてもまずは日本語の能力を上げていかなければならないので、相当の勉強が必要だという。私たちが見学した講義では来日して二ヶ月足らずの学生が早くも基本動詞の活用などを使いこなしていたことに舌を巻いた。帽子をかぶり、時折ペットボトルの飲み物を飲みながらという自由な気風の中で、真剣に日本語を身につけようとする国際生の能力の高さを感じた。
また、もう一つの授業はパワーポイントとプリントを用いて、ある言語とその概念を結びつけるためにテキストを読みながら真剣に考えるという場面だったが、教室は緊張感がみなぎっていた。
図書館
開学当初は割と平凡な図書館だったらしい。それが、学生の利用が少ないから何とかしてほしいという要望に応えて大きく改善をし、魅力的な空間に生まれ変わったという。なるほど、静かに自習する空間は「集中の森」、学生がコミュニケーションを取る場所は「語らいの海」など、洒落たネーミングを施し、ガラス張りのオープンスペースが開放的な空間を演出している。また、それぞれのゾーンにはイメージに合った色のカーペットを敷かれるという念の入れようだ。学校の個性は図書館を見れば分かる。
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学食
APUの学食は「本場の味」が楽しめる。グリーンカレーやタコライスなどがあるだけでもAPUらしいと思ったが、それ以上に印象的だったのが「味」。東京のアジアンレストランなどで食べるよりも本格的に作られていて、ホントに辛かった(笑)。そのレシピで作ったカレーが好評だということで、レトルトでも学内で販売していた。
在学生との懇談
大学見学のプログラムには在学生との懇談の時間も組まれていた。私たちは2組、8名の学生たちととじっくり話をすることができた。私の隣に座ったのは、バングラディッシュ出身の4年生の男子学生。日本語の見事さもさることながら、それ以上に、日本の大学にやってきた目的や将来の展望などを明快に答えてくれたことにも驚いた。就職活動について聞いたところ、既にインテルやNECに内定を取っているそうで、グローバルな人材獲得競争が行われている様子がよくわかった。また、5カ国語を話せるというベトナム出身の女子学生は、フィンランドの学校とオーストラリアの学校を考えつつ、最終的にAPUに決めたという。大学選びも世界中からというのがグローバルスタンダードということか。
本校卒業生との再会
卒業生のうち1名はアメリカンフットボール部の出身で、その活動実績と高い目的意識を持ってAO入試で合格していた。大学の合格が決まってからは遊んでしまうというのが相場だが、彼は合格してからの方がむしろ自習室などに通って懸命に語学の勉強をしていたほどだ。あとの3人はセンター試験や一般入試で合格し、縁あって入学することにした。1人はなんと「センター得意教科型」で現代文と社会を使っての合格、つまりこれほど国際色豊かな大学に英語を使わないで入学したのだ。アドミッションポリシーでもある「大切なのは英語力よりも目的意識や学習意欲」という姿勢がこんなところにも生きている。
卒業してからまだ二ヶ月程度しか経っていないものの、関根元学年主任は彼らとの再会にすっかり目を細めていた。「土日は何をやって過ごしているの?」という問いかけに、「宿題やってますよ。毎週2000字以上も書くんですから大変ですよ」と言いながら、書いたレポートを見せてくれた。「どれどれ」と覗き込む関根元主任は、教え子たちが遠く離れた全く異なる環境の中、短期間で大きく成長している様子が嬉しくて仕方がないようだ。大学での生活はまだ始まったばかりで、手探りの部分も多いようだ。けれども、様々な国の文化を間近で体験しながら、真剣に勉強に取り組んでいる様子は見て取れた。彼らがこの場所で本気で学べば、どの大学に行くよりもかけがえのない財産を得るであろうことを確信した。
終わりに
大学生活というのはややもすれば「予定調和」で終わってしまいがちだ。普通に授業を受けて、サークルとバイトに明け暮れ、3年の終わりには就職活動をするという具合に。APUという大学ではこうした予定調和的な大学生活は存在しない。学ぶ主体の意欲によって、思ってもいなかったような場所に行き、想像もできないようなことを経験し、世界中に知己を得ることも可能である。
ある国内生はこんなことを言っていた。「APUでは『変わっている』ってことが価値なんですよ」
「世界に一番近い大学」、いや、「大学の中に世界がある」という「変わっている大学」の見学は非常に刺激的だった。案内をしてくれたAPUのスタッフの方や学生さんたちには御礼申し上げたい。卒業生の諸君の今後の活躍も心から祈っている。
文責 進路指導部主任 西村準吉
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進路指導部主任 西村準吉
オープンキャンパス
9月19日(日)。秋田駅から車で30分ほどのひっそりとした場所にある公立大学、国際教養大学のオープンキャンパスが小雨の降る中開催された。秋田県がミネソタ州立大学秋田校の跡地を買い取って、海外の大学の教授や東京外国語大学学長などを歴任した中嶋嶺雄学長を招聘し、「これまでの日本には存在しないグローバル・スタンダードの大学を創り、世界に挑戦するという決意」(学長メッセージより)で、数年にわたる協議を重ねた末2004年に開学した。独創的な理念と斬新なカリキュラムが評判となり、近年では全国で最も注目を集める大学の一つにまでなった。
国際基督教大学(ICU)、立命館アジア太平洋大学(APU)、早稲田大学国際教養学部と並んで、国際教育の担い手として圧倒的な存在感を示している国際教養大学(AIU)とはいったいどんな大学なのか。佼成学園進路指導部webのキャンパスレポートの記念すべき第1回として、その魅力の一端に迫ってみたい。当日は、かねてからAIUに高い関心を寄せている高3の生徒1名と高2の生徒1名が東京から参加した。また、私の中学・高校の同級でもある倉科一希准教授にご案内をしていただいた。
国際教養大学の魅力
国際教養大学の魅力を挙げればきりはないが、
「新入生は一年間の寮生活」
「卒業までに一年間の海外留学を義務化」
「全ての授業が英語で行われる」
「24時間開館の図書館」
という点についてここでは触れておきたい。
AIUのオープンキャンパスでは学生がピンク色のTシャツを着てスタッフとして案内をしてくれる。もちろん日本人だけでなく様々な国の学生たちだ。「国際教養大学を全国に広め隊」という有志の一団が、学生生活について懇切丁寧にレクチャーしている。その語り口は愛校心に溢れ、非常に熱がこもっている。留学体験コーナーにも多くの留学帰りの学生がその魅力について存分に語ってくれる。そう、AIUでは学生そのものが最大の広告塔なのだ。自分の体験してきたことを語るのだから、これ以上に説得力があるものはない。参加した生徒も興味深そうに様々な質問を投げかけていた。
授業は全て英語
英語で行われる模擬授業にも参加した。「日本では90%以上の大学が日本人が日本語で日本人に教えているという形態だが、グローバル社会ではそれは限界にきている」(学長メッセージ)というように、AIUでは教授たちも全ての会議を英語で行っているほどの徹底ぶりである。今回の模擬授業では、20~30名ほどの教室はどの講座も満員で意欲あふれる高校生が英語での授業に聞き入っていた。それだけではなく、一見したところ普通の女の子に見える高校生が自ら挙手して流暢な英語で受け答えをする姿には、未来の大学像が予感された。本校から参加した二人も懸命に授業についていっていたようだ。
見たことのないような図書館
圧巻だったのは図書館である。写真でも分かるように、秋田杉という温かみのある素材を活かして、扇形にゆったりと広がる図書館は日本のどの大学の図書館にも似ていない。開学6年ということもあって蔵書はまだまだ増えると言うことだが、諸外国の文献がこれほど見事に開架されている様子に、本校の生徒も思わず息をのんでいた。中嶋学長によれば、図書館を24時間開館にすることは絶対に譲れない一線だったという。「コンビニだって24時間営業なのに、なんで図書館が24時間開館できないんだ」という一言が印象的だった。防犯上の理由などからなかなか認可が下りなかったが、粘り強く交渉した末に認めてもらい、実際に問題は起こっていないらしい。
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高い就職率の秘密
就職率は開学以来100%。今年度もすでに94%だというAIUの驚異的な数字には舌を巻くばかりだが、就職課に立ち寄る機会があったのでそこで就職の実態について疑問をぶつけてみた。
「これだけ不況が続く中、秋田という東京から離れた場所で就活に不利はないんですか?」
「いいえ、本学では多くの企業が大学まで足を運んでセミナーを開催しています。だから、そうした不利はないですよ」
なるほど真の教育を追求していれば人材は確実に育ち、自ずと評価が高まるということのようだ。
午後には倉科准教授の取り計らいで中嶋学長にお会いすることができた。実を言うと中嶋学長は、私と倉科准教授の高校の大先輩にあたる方なのである。そうした縁もあって、お話をうかがうことができたのだが、そのときに印象的なことをおっしゃっていた。
「本学は幸いこんなご時世でも企業からの評価が高く、就職率100%を続けているけれど、就職のために本学を選ぶとしたらそれは本末転倒だ。就職はあくまで結果としてついてくることであって、本学の理念に共感して入学してくれなければ。最近では入学者の水準も上がってきたようで嬉しい面もあるけれど、そうした受験勉強の秀才が増えてしまうのはあまりよくない。もっと荒削りでも意欲のある学生にどんどん挑戦してもらいたい」
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学長メッセージ
学長メッセージでは、「知の鎖国」を打破するということを力説されていたように、知の世界のグローバルスタンダードに参入するには小手先の技術や浅薄な海外への憧憬では通用しないようだ。そういえば倉科准教授もこんなことをおっしゃっていた。
「本学では、英語だけができる学生は最初のうちは確かにリードしているけれど、英語は入学してからでも勉強できるので、2年、3年と経過していくうちに英語だけができる学生は置いていかれ、もっと幅広く学ぶ姿勢がある学生が頭角を現すのです」
参加生徒の様子
本校から参加した生徒は、私が事務職員と話しているといつの間にかAIUの留学生と仲良くなっていたり、留学体験コーナーに自ら足を運んでいた。どうやら大いに刺激を受けたようだ。進路指導部主任という役職上、様々な大学を回ることが多いけれども、国際教養大学ほど刺激に満ちた大学はなかなか見つからない。確かに場所の問題や、「国際教育」という単科という点で、誰もが目指す大学ではないだろう。しかし、確実にそこ目指す「誰か」は存在しており、それは年々増えていくことだろう。日本の大学観を見直すときが来ているようだ。授業の枕となる雑談でこの視察について話したところ、予想以上に生徒が関心を示していたのも印象的である。
最後になるが、中嶋学長を始め、倉科准教授や国際教養大学のスタッフの皆さんに感謝したい。(了)
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