立命館アジア太平洋大学(APU)キャンパスレポート
2011-05-04 | キャンパスレポート


近年グローバル化の流れは大学にも押し寄せ、多くの大学が「国際系」学部を作ったり、英語のみで行う授業を必修にしたりと、90年代初頭に起こった「国際関係学部ブーム」とは違った形で、もっと本格的な形でグローバルスタンダードを目指す大学の改組が行われている。そして数ある「国際系大学」「国際系学部」の中でひときわ異彩を放つ大学、「立命館アジア太平洋大学」が大分に出来たのは、今から10年ほど前のことだった。

 

世界中の人のために作った大学

数ある「国際系」大学との違いを尋ねると、「他の大学は日本人が日本人のために作った大学ですが、本学は世界中の人のために作った大学です」と答えてくれたのは、立命館アジア太平洋大学(通称APU)のアドミッションズオフィスの伊藤さんだった。現在、注目を集めている異色の大学APUとはどんな大学なのだろうか。進路指導部のキャンパスレポートの一環として遠く大分まで訪れ、その実態を探りに行った。

今回の視察の目的はもう一つ。今春の卒業生226名のうち、なんと4名がこの大学に進学したのである。東京の私立高校の学生が大分にある大学、しかも学生の半数が留学生というあまりにも個性的な大学に通うことになったのも何かの縁かもしれない。今春の卒業生たちの学年主任でもあった関根と在校生たちとの再会という、ちょっとしたイベントをレポートしてみたい。

APUの場所

大分空港から車で30分ほどかかる高台に別府湾が一望できるところにキャンパスは位置していた。2000年開校ということで校舎はまだ新しく、瀟洒な煉瓦造りの外壁と緑がほどよく調和した空間には時折、強いけれども心地の良い風が吹き抜けていた。自然に囲まれたキャンパスの周囲には何もなく大学そのものが一つの「世界」といった風情だ。学生たちはキャンパスから遙かに見下ろせる別府の街を「下界」と呼んでいたが、まさしくそのくらい「世間」とは隔絶した場所にあった。

APハウス

APUの学生の中にはAPハウスと呼ばれる学生寮に入る学生も少なくない。原則として1年次だけということだが、シェアルームは必ず「国内生」と「国際生」(留学生)がペアになり、最も生きた形での異文化コミュニケーションの場となるようだ。本校の卒業生のうち、2名がAPハウスに入寮(倍率は3倍程度で、学力試験などによって優先順位が決まる)している。80カ国以上の学生が暮らす寮だけあって、食事時には様々な国のスパイシーな香りが建物いっぱいに広がるらしい。残念ながら食事時に訪れたわけではないのでその香りを体験することはできなかった。

 

授業

授業はかなりユニークだ。国際生にとっては何を学ぶにしてもまずは日本語の能力を上げていかなければならないので、相当の勉強が必要だという。私たちが見学した講義では来日して二ヶ月足らずの学生が早くも基本動詞の活用などを使いこなしていたことに舌を巻いた。帽子をかぶり、時折ペットボトルの飲み物を飲みながらという自由な気風の中で、真剣に日本語を身につけようとする国際生の能力の高さを感じた。

また、もう一つの授業はパワーポイントとプリントを用いて、ある言語とその概念を結びつけるためにテキストを読みながら真剣に考えるという場面だったが、教室は緊張感がみなぎっていた。

図書館

開学当初は割と平凡な図書館だったらしい。それが、学生の利用が少ないから何とかしてほしいという要望に応えて大きく改善をし、魅力的な空間に生まれ変わったという。なるほど、静かに自習する空間は「集中の森」、学生がコミュニケーションを取る場所は「語らいの海」など、洒落たネーミングを施し、ガラス張りのオープンスペースが開放的な空間を演出している。また、それぞれのゾーンにはイメージに合った色のカーペットを敷かれるという念の入れようだ。学校の個性は図書館を見れば分かる。

学食

APUの学食は「本場の味」が楽しめる。グリーンカレーやタコライスなどがあるだけでもAPUらしいと思ったが、それ以上に印象的だったのが「味」。東京のアジアンレストランなどで食べるよりも本格的に作られていて、ホントに辛かった(笑)。そのレシピで作ったカレーが好評だということで、レトルトでも学内で販売していた。

 

在学生との懇談

大学見学のプログラムには在学生との懇談の時間も組まれていた。私たちは2組、8名の学生たちととじっくり話をすることができた。私の隣に座ったのは、バングラディッシュ出身の4年生の男子学生。日本語の見事さもさることながら、それ以上に、日本の大学にやってきた目的や将来の展望などを明快に答えてくれたことにも驚いた。就職活動について聞いたところ、既にインテルやNECに内定を取っているそうで、グローバルな人材獲得競争が行われている様子がよくわかった。また、5カ国語を話せるというベトナム出身の女子学生は、フィンランドの学校とオーストラリアの学校を考えつつ、最終的にAPUに決めたという。大学選びも世界中からというのがグローバルスタンダードということか。

 

本校卒業生との再会

卒業生のうち1名はアメリカンフットボール部の出身で、その活動実績と高い目的意識を持ってAO入試で合格していた。大学の合格が決まってからは遊んでしまうというのが相場だが、彼は合格してからの方がむしろ自習室などに通って懸命に語学の勉強をしていたほどだ。あとの3人はセンター試験や一般入試で合格し、縁あって入学することにした。1人はなんと「センター得意教科型」で現代文と社会を使っての合格、つまりこれほど国際色豊かな大学に英語を使わないで入学したのだ。アドミッションポリシーでもある「大切なのは英語力よりも目的意識や学習意欲」という姿勢がこんなところにも生きている。

卒業してからまだ二ヶ月程度しか経っていないものの、関根元学年主任は彼らとの再会にすっかり目を細めていた。「土日は何をやって過ごしているの?」という問いかけに、「宿題やってますよ。毎週2000字以上も書くんですから大変ですよ」と言いながら、書いたレポートを見せてくれた。「どれどれ」と覗き込む関根元主任は、教え子たちが遠く離れた全く異なる環境の中、短期間で大きく成長している様子が嬉しくて仕方がないようだ。大学での生活はまだ始まったばかりで、手探りの部分も多いようだ。けれども、様々な国の文化を間近で体験しながら、真剣に勉強に取り組んでいる様子は見て取れた。彼らがこの場所で本気で学べば、どの大学に行くよりもかけがえのない財産を得るであろうことを確信した。

終わりに 

大学生活というのはややもすれば「予定調和」で終わってしまいがちだ。普通に授業を受けて、サークルとバイトに明け暮れ、3年の終わりには就職活動をするという具合に。APUという大学ではこうした予定調和的な大学生活は存在しない。学ぶ主体の意欲によって、思ってもいなかったような場所に行き、想像もできないようなことを経験し、世界中に知己を得ることも可能である。

ある国内生はこんなことを言っていた。「APUでは『変わっている』ってことが価値なんですよ」

「世界に一番近い大学」、いや、「大学の中に世界がある」という「変わっている大学」の見学は非常に刺激的だった。案内をしてくれたAPUのスタッフの方や学生さんたちには御礼申し上げたい。卒業生の諸君の今後の活躍も心から祈っている。

 

文責 進路指導部主任 西村準吉

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